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イベント会社でクズ扱いされる話 7ページ目

終わらない教育

もう1時間は経ったのかもしれない。

直立して掃除用具入れに籠って1時間。
よく頑張っているなと我ながら実感する義明。

そういえば洋子はどうしているのだろうか。
洋子はトイレに閉じ込められているはず。
あれから何の音もしなかった。
ということは洋子もトイレに閉じ込められたまま
1時間反省し続けているのだろうか・・・

そう思いながらもいつまでここで反省していればいいのだろうか・・・
考えたり
考えなかったりするうちに
もう軽く2時間は経っているはずだ。

もしかしたら凛香は自分たちのことなど考えずに
もう忘れているかもしれない。

徐々に凛香は帰ってこない
という考えが強くなってきた。

帰ってくるならこんなに遅いはずがない。
というかそもそももう夜なのに
わざわざ自分たちのために
また会社に戻ってくるだろうか。
あり得るとしたら携帯に電話がかかってくるくらいだ。
戻ってくるなんてありえない・・・

そんなことを考えながらもう3時間が経っていた。
義明はずっと掃除用具入れに入ったまま。
そしておそらく洋子は女子トイレに入ったままだ。

こんなに凛香を恐れてしまう自分は
いつの間にかこの会社に洗脳されてしまったのだな
と感じた。

しかしやはりこのまま日が明けるまで
ここに閉じこもっていることもできなかった。

ギイー

ゆっくりと掃除用具入れの扉を開き
義明はついにそこから脱出した。
部屋は真っ暗で機械の単調な音だけが聞こえる。

暗闇に目が慣れているせいか
電気がついていなくとも部屋のなかはある程度見えた。
義明は女子トイレのほうに向かった。

「よ、洋子さん・・・」

恐る恐る呼びかけると
「はい・・・」
何かこもった声だったが確かに洋子の声だった。

「あ、開けてもいいですか?」

洋子が出てくる気配がなかったので
義明は洋子にそう尋ねた。

「いいよ」

そして義明は女子トイレの扉を開いた。

するとそこには
便器に顔を突っ込んで
さらに上から蓋をかぶせられた洋子の姿があった。

ここまで我慢した義明もすごいが、便器に頭を突っ込んだまま
ずっと我慢している洋子は正気とは思えなかった。

「洋子さん・・・
もう・・・

帰りませんか。

きっと凛香さんはもう来ないと思います・・・」

恐る恐るそう言うと

「やめたほうがいいわよ
凛香さんからいつ電話がるかわからないから。
その時にここにいなかったら
それこそ何されるかわからないわよ」

どうも洋子は過去にも似たような経験があるようだ。
それほどまでに凛香は偉い存在なのか・・・
義明は分からなくなった。
こんなことされるなら、いっそのことこの会社を辞めればいいのに。

義明は洋子の気持ちが理解できなかった。

「じゃあ、僕も帰らないほうがいいです
よね?」

義明がそう言うと

「当たり前でしょ!
あんたは本当にバカなのね!」
便器の中から洋子は怒った口調で言った。

そうだ、洋子は自分のせいで
連帯責任でこんな目に合っているだけだ
その洋子を置いて帰るなんて
よく考えればありえない。

「申し訳ありませんでした洋子さん
今すぐ掃除道具入れに行って
また中に入って待ってます」

なんて愚かな言葉だと思ったが
後戻りはできない。
義明は再び汚い掃除用具入れの中に自分から入った。

(臭い・・・)

一瞬自分はなんて馬鹿馬鹿しいことをしているんだと思う。
しかしその後考えるほどに
自分がした罪や
洋子も巻き添えにしてしまっていること
これがばれればクビになってしまうこと
稼いでいる凛香に対する負い目
様々な考えが今の自分を支配する。

凛香さんが命令したんだから
許してもらえるまで
ここから出ては駄目だ・・・

最初の1時間ほどはあっという間に過ぎたが
何も考えることが無くなると
なんて時間がたたないんだと思った。

しかし次第に眠気が襲い
意識が飛ぶ瞬間が増え
ふと気が付くとなんだか外から光が差し込んでいるようだ。

どうも義明も洋子も
命令通り
しっかり指定の場所で反省し続け
結局凛香から連絡があったのは出勤前

「申し訳ありませんでした
本当に反省しています・・・」

二人は電話越しで何度も謝り
特別に許してもらうことが出来た。

そして義明は二人きりの職場で
洋子に土下座して詫びた。
洋子は疲れ切った顔をしていたが

「あんたの面倒見るのが仕事だけど
こんなことはもう二度とないようにしてね
今日はもう怒る気力もないわ」
と言いながら許してくれた。

そして今日は何事もなく一日が終わった。
家に帰ると突然睡魔に襲われて
義明はいつの間にか眠っていた。

麻美との上下関係

今日は朝4時に起きた。
なぜなら唯に命令されたからだ。
唯の代わりにイベントの仕事に出かけることになっている。
イベント会場に女性たちを車で送っていく仕事だ。
ただそれだけの仕事なので楽な仕事だが
何かミスがあると唯に何をされるかわからない。

「あ、荷物僕が持ちます」

義明は遅れてきた金髪ギャルのカバン持ちをした。
「え、ありがとございます~」
黒のロングブーツで短いスカート
見たからにギャルという感じでメイクもばっちりで
綺麗な女性だった。
名前は麻美といった。

二人は車に乗り込み
運転手の義明はカーナビに目的地を入力して
出発した。

「ねえ、ちょっとタバコ買うの忘れたから
コンビニ寄ってくれない?」

麻美は後部座席で
足を組んで化粧をしながら言った。

「あ、は、はい」

麻美は明らかに義明より後に入社したスタッフのはずだが
なんだか偉そうだな、と義明は感じた。

「私今忙しいから、ちょっとこの銘柄のタバコ買ってきてくれる?」

コンビニに着いたら今度は携帯を見ながら麻美はそう言った。

「ちょ、は、はは・・・
じ自分のタバコじゃないですか・・・
僕に買いに行かせなくても・・・」

義明は精いっぱい抵抗して見せた。

すると
「え~~?
唯さんから
なんでも面倒な事やらせたらいいよって
聞いてたんだけどな~」

義明は表情は変えなかったがドキッとした。
唯からそういわれているのであれば
当然義明は逆らえない。
しかも麻美のこの態度からすると
かなり義明を見下すような情報を伝えているに違いない。

「分かりました」
そう言って麻美からタバコを預かろうとすると
麻美は意地悪にタバコを車内に落とし
「ちゃんと受け取れよバカ」と義明を罵った。

睨みつける麻美の顔に怖さを感じ

「すいませんでした」
と言って
落ちたタバコを自ら拾い上げ
それをもってコンビニに向かってしまった。

この瞬間麻美と義明の上下関係は確定してしまった。

メンソールの細長い紙タバコを購入する義明。
基本男性が購入する銘柄ではない為
嫌でもパシリにされていることを実感させられる。

「買ってきました麻美さん」というと
「一つ?普通いくつか買ってくるでしょ?」

そう言われると
「あ、あの、す、すいませんでした。
もっと買ってきます」

ついそう答えてしまった。

再度買いに行かされる義明。

さらに2つ買って持っていくと

「そこ置いといて、まったくクズなんだから・・・」
麻美はそう言いながら携帯を見始めた。

「あ、あの、お金・・・」
義明がおどおどとそう言うと

「はぁ?」
真顔で睨みつけられる義明。

またつい
「いえ、あの、その
すいません
お金は
お金はいいです。
大丈夫です」

そう言ってしまった。

ミスを続ける義明は、奴隷根性が染みついてしまっていることもあり
また
これで麻美を怒らせて
会社で問題になることを無意識的に恐れてしまった。
こんなことはどう考えてもおかしく
堂々とお金は払ってもらえばいいだけの話だが
卑屈になる癖が染みついた義明
そして

義明はクズなんだと
認知され
麻美も義明を堂々とクズ扱いしている
その勢いに押され

義明は何も逆らうことが出来なかった。

背丈も義明より低く
年もずっと下のギャルなのだが
なんだか怖さすら感じ始めた。

(まあ、タバコくらい
後輩におごってあげただけだ)
義明はそう思って自分を納得させて気持ちを落ち着けた。

そして会場へと運転を続けた。

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